東京高等裁判所 平成7年(行ケ)229号 判決 1997年5月14日
東京都台東区松が谷2丁目13番13号
原告
梶原工業株式会社
代表者代表取締役
梶原徳二
訴訟代理人弁護士
吉田裕敏
同弁理士
原田信市
同
門間正一
香川県観音寺市八幡町3丁目4番15号
被告
株式会社サムソン
代表者代表取締役
岡﨑弘明
訴訟代理人弁護士
白川好晴
同
矢野哲男
同弁理士
山内康伸
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成6年審判第21795号事件について、平成7年7月28日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「加熱調理方法および装置」とする特許第1665259号発明(昭和58年3月3日出願、平成2年10月31日出願公告、平成4年5月19日設定登録)の特許権者である。
被告は、平成6年12月22日、原告を被請求人として、上記特許につき、その特許を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成6年審判第21795号事件として審理し、平成7年7月28日、「特許第1665259号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第2項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年8月21日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨
(1) 特許請求の範囲第1項の発明(以下「本件第1発明」という。)の要旨
加熱釜およびこの加熱釜内に投入した材料の重量をロードセルを用いた秤量装置で検出し、この秤量装置の重量検出信号から演算して煮詰め工程中に材料重量を連続的に表示すると共に、材料の含水率をその重量によって検出し、含水率が所定値に達した時に終了信号を出して煮詰め工程を終了させることを特徴とする加熱調理方法。
(2) 特許請求の範囲第2項の発明(以下「本件第2発明」という。)の要旨
攪拌機を有する加熱釜を秤量装置のロードセルに支持させ、前記秤量装置の重量検出信号から演算して煮詰め工程中の材料重量を連続的にデイジタル表示する表示機構および材料の重量から検出される材料の含水率が所定値に達した時に終了信号を出す指示機構を有する制御装置を、前記秤量装置に接続したことを特徴とする加熱装置。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件第1及び第2発明は、実願昭54-68018号のマイクロフィルム(審決甲第1号証、本訴甲第2号証、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)と、昭和56年9月5日発行「計測技術」Vol.9 No.10(審決甲第2号証、本訴甲第3号証、以下「周知例1」という。)、昭和55年5月5日発行「計測技術」Vol.8 No.5(審決甲第3号証、本訴甲第4号証、以下「周知例2」という。)、昭和52年10月20日発行「産業機械」昭和52年10月創立30年記念号(審決甲第4号証、本訴甲第5号証、以下「周知例3」という。)、実開昭57-128097号公報と実願昭56-14462号のマイクロフィルム(審決甲第5号証、本訴甲第6号証、以下「周知例4」という。)及び特開昭49-18648号公報(審決甲第6号証、本訴甲第7号証、以下「周知例5」という。)に記載された周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違背してなされたものであって、同法123条1項1号(昭和62年法律27号による改正前のもの。なお、審決書21頁1行の「123条第1項第2号」は同条項「1号」の誤記と認める。)に該当するので、無効であるとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本件第1及び第2発明の要旨の認定並びに引用例発明の認定、周知例1~5の各記載事項の認定、本件第1発明と引用例発明との相違点(1)~(3)の認定、本件第2発明と引用例発明との相違点(1)、(2)の認定は、いずれも認め、その余は争う。なお、審決書の「行程」の記載はすべて誤りであり、「工程」が正当である。
審決は、本件第1及び第2発明につき、その各々と引用例発明との一致点の認定を誤り(各取消事由1)、各相違点の判断を誤り(各取消事由2)、本件第1及び第2発明の作用効果が予期される以上の格別顕著なものではないと誤って判断した(各取消事由3)ものであるから、違法として取り消されなければならない。
Ⅰ 本件第1発明について
1 取消事由1(一致点の誤認)
引用例発明における「煮込」は、本件第1発明における「煮詰め」に相当するものではない。
すなわち、「煮込」は、材料を煮汁中でよく煮て、その材料に煮汁による味付けをした所期の食品に仕上げることを主たる目的とする(甲第8~第14号証)のに対し、「煮詰め」は、材料を、その水分を少なくして所期の食品に仕上げることを主たる目的とする(甲第9~第12号証)ものであり、この点において、両者は、互いに別異の加熱調理方法である。
もちろん、「煮込」においても、水分はその味付け等に影響を及ぼすので、それなりの配慮は必要と思われるが、「煮込」は、材料に煮汁による味付けをした食品の仕上げを本来の目的とするものであるから、少なくとも、水分を減らしていって所定の食品を仕上げることを本来の目的とする「煮詰め」と同じようには、材料の水分を特別に問題にする必要があるとは思われない。
したがって、引用例発明の「煮込」が、本件第1発明の「煮詰め」に相当するとした審決の判断(審決書8頁3~5行)は、誤りである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)
(1) 相違点(1)について
引用例発明は、「基台を天秤方式で保持すること」により、加熱釜の重量に関係なく材料重量を求めることを内容とする測定法を採用しているものであり、この測定法と、対象物と容器の合計重量から容器自体の重量を減算して対象物のみの重量を求めることを内容とする周知の手法とは、技術内容を異にする。
引用例発明は、上記の測定法を採用することによって、「煮込機自体の重量の影響を少なくして煮込釜内容物の重量を鋭敏に検出することができる」ようにしたものであるから、仮に、引用例発明に上記周知の手法を採用すると、対象物と容器の合計重量から容器自体の重量を減算することとなり、煮込機自体の重量が重大な影響を与えることとなるから、上記の作用効果を期待することはできない。そうすると、上記の測定法が周知であるとしても、これを引用例発明に採用することは、当業者が容易になしえたとはいえないから、審決の相違点(1)の判断(審決書9頁9~19行)は、誤りである。
(2) 相違点(2)について
周知例1~3(甲第3~第5号証)に記載された、ロードセルを用いて重量の計測を行う場合に、計測された重量を連続的に表示するという技術が、周知技術であることは認めるが、上記周知技術は、計測器又は「はかり」の技術分野に属するものであり、本願第1発明及び引用例発明の属する食品の加熱調理器とは技術分野を異にするものであるから、この周知技術を、引用例発明のような煮込料理に関する発明に採用することはできない。
煮込調理等の加熱調理において、調理中の材料重量を連続表示するという考え方そのものが、従来知られていたことではなく、引用例発明の食品の煮込重量測定において、上記周知の技術事項を適用することを、当業者が容易になしえたとはいえないから、審決の相違点(2)の判断(審決書10頁4~12行)は、誤りである。
(3) 相違点(3)について
周知例4、5(甲第6、第7号証)に記載された「ある工程を進行させる場合に、その工程が終了されるべき状態にいたると終了信号を出すこと」が、周知技術であることは認めるが、周知例4は穀物の除湿乾燥方法と装置に関するものであり、周知例5は籾の乾燥方法と装置に関するものであるから、本願第1発明及び引用例発明の属する煮込調理等の加熱調理とは、その属する具体的技術分野及び具体的技術内容があまりにも異なり、上記の周知技術を、引用例発明に採用することはできない。
煮込調理等の加熱調理において、含水率が所定値となるような材料の重量を予め設定し、材料重量がその設定値となったときに、終了信号を出して煮込工程を終了させるという考え方そのものが、従来知られていたことではなく、引用例発明の食品の煮込重量測定において、上記周知の技術事項を適用することを、当業者が容易になしえたとはいえないから、審決の相違点(3)の判断(審決書13頁13~20行)は、誤りである。
3 取消事由3(作用効果の看過)
本件第1発明は、煮詰め工程中に連続的に表示する材料重量により検出する含水率が所定値に達した時に終了信号を出して煮詰め工程を手動又は自動で終了させることができ、材料の仕込み重量と煮詰め製品重量のチェックを容易に行うことができ、また、煮詰め工程中の材料重量の変化を見て、加熱具合や煮詰め工程の終了時期を容易に判断でき、良好な一定品質の製品が容易に得られる作用効果を奏する。
これに対し、引用例発明及び周知例1~5に記載された周知の技術事項は、練りあん等の食品の製造に必要な煮詰め工程自体について何ら触れるところがなく、本件第1発明の作用効果を奏しうるとは到底認められない。
したがって、審決の、本件第1発明により、上記の引用例発明等から「予期される以上の格別顕著な効果が奏されるものではない。」(審決書14頁3~4行)との判断は、誤りである。
Ⅱ 本件第2発明について
1 取消事由1(一致点の誤認)
前記のとおり、引用例発明における「煮込」は、本件第2発明における「煮詰め」に相当するものではなく、引用例発明における「煮込釜」は、本件第2発明における「加熱釜」に相当するものでもない。
したがって、この点に関する審決の判断(審決書14頁16~19行)は、誤りである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)
(1) 相違点(1)について
前記のとおり、引用例発明に「対象物と容器の合計重量から容器自体の重量を減算して対象物のみの重量を求める」ことを内容とする周知の測定法を採用することと、周知例1~3に記載された、ロードセルを用いて計測された重量を連続的にデジタル表示するという周知技術を、引用例発明のような煮込料理に関する発明に採用することは、いずれも当業者が容易になしえたとはいえないから、引用例発明において「本件第2発明の構成をとることは、当業者にとって格別な創意工夫を要することとはいえない。」(審決書17頁8~10行)との審決の判断は、誤りである。
(2) 相違点(2)について
前記のとおり、周知例4、5に記載された「ある工程を進行させる場合に、その工程が終了されるべき状態にいたると終了信号を出す」という周知技術を、引用例発明に採用することはできないから、引用例発明において、「加熱釜内に投入した材料の含水率が所定値となる重量を予め設定しておいて、ロードセルの重量検出信号から演算した材料重量がこの予め設定しておいた重量となった時に終了信号を出す指示機構を設けることは、当業者が格別の創意工夫を要せずになし得たことである」(審決書19頁16行~20頁2行)
との審決の判断は、誤りである。
3 取消事由3(作用効果の看過)
前記のとおり、本件第2発明により、引用例発明及び周知例1~5に記載された周知の技術事項から「予期される以上の格別顕著な効果が奏されるものでもない。」(審決書20頁8~9行)との審決の判断は、誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。なお、審決書中の「行程」の記載がすべて「工程」の誤記であることは認める。
1 各取消事由1について
「煮込」も「煮詰め」も、ともに「煮る」ことの1形態である以上、各工程の進行に伴い、器内の水分と材料の重量が減少する点においてその性質を共通する食品の加熱調理方法であるから、両者がその内容を全く異にするとの原告の主張は失当である。
引用例発明は、煮込装置(釜)による食品の「煮込」、すなわち煮る工程において、煮込釜内の水分が蒸発散逸して減少し、これにより釜内の水分(と材料)の重量が減少することに着眼して、該重量の測定により煮込工程の仕上時を正確に把握しようとするものである。これに対し、本件第1及び第2発明も、加熱釜による食品の「煮詰め」、すなわち煮る工程において、上記同様の過程で釜内の水分(と材料)の重量が減少することに着眼して、該重量の測定(及びこれによる含水率の検出)により煮詰め工程の終了時を正確に把握しようとするものであって、引用例発明とはその技術的意味において実質的に同一ともいえるものである。
2 各取消事由2について
引用例発明のような公知技術に対し、「対象物と容器の合計重量から容器自体の重量を減算して対象物のみの重量を求める」という周知慣用技術を適用することが容易か否かは、技術分野の同一性とか親近性、当業者が当然知っている技術知識か否か等の観点から判断されるべきものであり、そのような判断基準に照らすと、上記周知慣用技術を引用例発明に採用することが容易であるとした審決の判断に誤りはない。
また、周知例1~3に記載された「ロードセルを用いて計測された重量を連続的に表示する」という技術も周知慣用技術であるから、これを引用例発明に適用することの容易性は当然に認められるものである。
さらに、周知例4、5に記載された「ある工程を進行させる場合に、その工程が終了されるべき状態にいたると終了信号を出すこと」という技術についても、周知慣用技術である以上、引用例発明への適用は容易であるし、食品加工分野という観点からみれば、周知例4、5は、引用例発明や本件第1及び第2発明と同一の技術分野に属するものであるから、適用の困難性は全く認められない。
3 各取消事由3について
本件第1及び第2発明により、引用例発明及び周知例1~5に記載された周知の技術事項から予期される以上の格別顕著な効果が奏されるものではないとする審決の判断は、正当である。
第5 証拠
本件記録中の証拠目録の記載を引用する。甲第17~第19号証を除き、書証の成立については、当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 各取消事由1(一致点の誤認)について
当事者間に争いのない前示本件第1及び第2発明の要旨に示すとおり、本件第1及び第2発明では、煮詰め工程中、加熱釜内に投入した材料の重量をロードセルを用いた秤量装置で検出するものであり、この「煮詰め」工程が、材料の水分を所定量蒸発させて所期の食品に仕上げることを主たる目的とする加熱調理工程であることは、当事者間に争いがない。
一方、引用例に、「煮込釜に投入した材料を加熱して煮込んで調理するものであって、特に、ロードセルで材料の重量を測定しつつ煮込んでいく加熱調理方法が記載されている」(審決書7頁19行~8頁3行)ことは、原告も認めるところであり、引用例発明における「煮込」が、一般的に、材料を煮汁中でよく煮て、その材料に煮汁による味付けをした所期の食品に仕上げることを主たる目的とする加熱調理法を意味することは、国語辞典や用語辞典(甲第8~第14号証)から、原告主張のとおりと認められる。
そうすると、本件第1及び第2発明における「煮詰め」工程と引用例発明における「煮込」工程とは、ともに材料と水分を合わせて加熱調理する工程であり、この場合、引用例発明の「煮込」工程においても、加熱調理する間に水分の蒸発により煮込釜内容物の重量の変化が生じ、煮込の仕上げがこの内容物の重量の変化に対応することは自明というべきであるから、引用例発明の「煮込」と本件第1及び第2発明の「煮詰め」とは、両者において水分の蒸発量の多寡において相違するとしても、加熱釜内に投入した材料を加熱調理する方法であることにおいて変わりはなく、また、引用例発明と本件第1及び第2発明は、この工程において加熱による材料の重量の変化を検出する点においても同様の技術であることは、前示事実から明らかである。
したがって、審決が、引用例発明における「煮込」が本件第1及び第2発明における「煮詰め」に相当すると認定した(審決書8頁3~5行、14頁16~17行)ことに誤りはない。
原告の主張は、一般的用語としての「煮詰め」と「煮込」の差異に拘泥し、引用例発明と本件第1及び第2発明において、「煮込」工程と「煮詰め」工程とが有する技術的意義を忘れた主張であって、もとより採用できない。
2 各取消事由2(相違点の判断の誤り)について
(1) 「秤量を行う場合に、目的とする秤量の対象物を容器に入れて秤量を行って対象物と容器の合計の重量を求め、これから容器自体の重量を減算(演算)して、対象物のみの重量を求めること」(審決書9頁5~8行、15頁18行~16頁1行)が周知技術であることは、当事者間に争いがない。
そして、引用例(甲第2号証)には、「食品の煮込機は食品工業では非常に多く用いられており、その場合煮込の仕上時の重量管理は容量測定、物性測定などによって行なわれている。しかしながら、このような管理方式では誤差が大きいために製品品質のばらつきが大きな問題であつた。本考案は煮込機全体を軸部を支点とする基台上に設け、基台の回動の応力をロードセルで測定することによつて煮込釜内容物の重量を正確に測定することができるようにしたものである。内容物の重量変化を管理することによつて煮込の仕上時を正確に知ることができる。本考案においては、基台を天秤方式で保持することによつて煮込機自体の重量の影響を少なくして煮込釜内容物の重量を鋭敏に検出することができるようにしたものであり、その結果、煮込仕上時を正確に定めることができて製品の品質を一定に保つことができる。」(同号証明細書1頁12行~2頁8行)との記載があり、この記載によれば、引用例発明は、食品の煮込みの際の従来の容量測定等による重量管理では誤差が大きいことを技術課題として、この誤差を小さくするために基台を天秤方式で保持して煮込機自体の重量の影響を少なくする測定方法を採用したものであり、この従来の一般的重量管理方式の1例が、前記周知技術であるものと認められる。
そうすると、引用例発明の採用した測定方法に替えて、従来から存する一般的な前記周知技術を採用することは、誤差の大小を特に問題としなければ、当業者にとって格別の創意工夫を要せずにできる程度のことであることが明らかである。
したがって、審決の、本件第1発明についての相違点(1)の判断(審決書9頁9~19行)及び本件第2発明についての相違点(1)の判断の前半部分(審決書16頁2~10行)は、いずれも正当であり、この点に反する原告の主張は採用できない。
(2) 周知例1~3(甲第3~第5号証)に記載された「ロードセルを用いて重量の計測を行う場合に、計測された重量を連続的に表示する」(審決書10頁1~2行)もしくは「連続的にデイジタル表示する」(審決書16頁12~13行)ことが周知技術であることは、当事者間に争いがない。
上記周知例1~3によれば、上記周知技術は、ロードセルを用いて物体の重量変化を計測する場合の一般的、汎用的な技術事項と認められるから、ロードセルを用いて食品の加熱調理中の材料重量の変化を計測しようとする場合に、当業者が上記周知技術を適用することにつき格別の困難性は認められない。
したがって、審決の、本件第1発明についての相違点(2)の判断(審決書10頁4~12行)及び本件第2発明についての相違点(1)の判断の後半部分(審決書16頁15行~20頁2行)は、いずれも正当である。
(3) 周知例4、5に記載された「ある工程を進行させる場合に、その工程が終了されるべき状態にいたると終了信号を出すこと」(審決書13頁9~11行)、また、このような終了信号を出す指示機構をその装置に設けること(同19頁10~13行)が周知技術であることは、当事者間に争いがない。
周知例4(甲第6号証)が穀物の除湿乾燥装置に関する考案であり、周知例5(甲第7号証)が重量測定による乾燥籾の含水率自動制御装置に関する発明であることは、当事者間に争いがないが、上記周知技術の内容からして、この技術が汎用的なものであることは、当裁判所に顕著な事実というべきであり、特定の技術分野での周知の技術にすぎないと認めるに足りる証拠はない。のみならず、周知例4、5に記載された考案及び発明は、いずれも籾を含む穀物の乾燥、すなわち食品における水分(含水率)の減少の管理及び制御を技術課題とするものと認められ、食品材料の水分の減少を管理する引用例発明や本件第1及び第2発明と、技術分野を全く異にするものとは認められない。
したがって、引用例発明に上記のような極めて一般的な周知技術を適用することは、当業者にとって格別の困難性を有するものではないと認められるから、審決の、本件第1発明についての相違点(3)の判断(審決書13頁13~20行)及び本件第2発明についての相違点(2)の判断(審決書19頁16行~20頁2行)はいずれも正当であり、この点に反する原告の主張は採用できない。
3 各取消事由3(作用効果の看過)について
以上のとおり、本件第1及び第2発明と引用例発明との相違点は、いずれも従前の周知技術及び周知例1~5に記載された周知の技術事項を採用することにより、容易に到達できる範囲内のものである。
したがって、それらを採択したことによる効果、すなわち、本件明細書(甲第16号証)に記載された効果も、自ずとその範囲内のものであり格別のものとは認められないから、本件第1及び第2発明により、引用例発明及び周知例1~5に記載された周知の技術事項から予期される以上の格別顕著な効果が奏されるものではないとする審決の判断(審決書14頁3~4行、20頁8~9行)は、いずれも正当である。
4 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決の認定判断は正当であって、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成6年審判第21795号
審決
香川県観音寺市八幡町三丁目4番15号
請求人 株式会社 サムソン
香川県高松市寿町1丁目1番地5号 ブラザー寿町ビル4階 山内特許事務所
代理人弁理士 山内康伸
東京都台東区松が谷2-13-13
被請求人 梶原工業 株式会社
東京都千代田区麹町4丁目8番地 麹町スカイマンション603号・505号
代理人弁理士 門間正一
上記当事者間の特許第1665259号発明「加熱調理方法および装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
特許第1665259号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第2項に記載された発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
Ⅰ. 本件特許第1665259号発明は、昭和58年3月3日に出願され、平成2年10月31日に出願公告(特公平2-49698号)された後、平成4年5月19日に特許権の設定の登録がなされたものであって、その要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項及び第2項に記載されたとおりの、
「1 加熱釜およびこの加熱釜内に投入した材料の重量をロードセルを用いた秤量装置で検出し、この秤量装置の重量検出信号から演算して煮詰め行程中に材料重量を連続的に表示すると共に、材料の含水率をその重量によって検出し、含水率が所定値に達した時に終了信号を出して煮詰め行程を終了させることを特徴とする加熱調理方法。
2 撹拌機を有する加熱釜を秤量装置のロードセルに支持させ、前記秤量装置の重量検出信号から演算して煮詰め行程中の材料重量を連続的にデイジタル表示する表示機構および材料の重量から検出される材料の含水率が所定値に達した時に終了信号を出す指示機構を有する制御装置を、前記秤量装置に接続したことを特徴とする加熱装置。」にあるものと認める。(以下、特許請求の範囲第1項に係る発明を「本件第1発明」といい、同第2項に係る発明を「本件第2発明」という。)
Ⅱ. これに対して、請求人は、本件特許を無効にする、との審決を求め、その理由として、本件第1発明及び本件第2発明は、各々、甲第1号証に記載された発明に基いて、要すれば甲第2号証乃至第6号証を参照して、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は同法第123条第1項第2号により、無効とすべきであると主張し、証拠方法として次の甲第1号証乃至第6号証を提出している。
甲第1号証:実願昭54-68018号(実開昭55-167324号)のマイクロフィルム
甲第2号証:計測技術 ’81. 9 Vol. 9 No. 10 昭和56年9月5日 日本工業出版発行 表紙 目次 91~99頁 裏表紙
甲第3号証:計測技術 ’80. 5 Vol. 8 No. 5 昭和55年5月5日 日本工業出版発行 表紙 目次 62~66頁 裏表紙
甲第4号証:産業機械 52年10月号・創立30年記念号 昭和52年10月20日 社団法人日本産業機械工業会発行 表紙 目次 126~128頁 裏表紙
甲第5号証:実開昭57-128097号公報並びに実願昭56-14462号(実開昭57-128097号)のマイクロフィルム
甲第6号証:特開昭49-18648号公報
Ⅲ. 一方、被請求人は、乙第1号証として甲第1号証の公報に朱色で加筆したものを提出すると共に、本件第1発明及び本件第2発明は、請求人が提出した甲第1号証に記載された発明又はこれと甲第2号証乃至第6号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第123条第1項第2号の規定によって、本件特許が無効にされる理由はない旨答弁している。
Ⅳ. 請求人が提出した証拠方法には、以下の事項が記載されている。
甲第1号証には、食品の煮込装置に関し、(a)従来、煮込の仕上時の重量管理は容量測定、物性測定によって行われていたことにより、製品品質のばらつきが大きな問題であったこと(明細書第1頁第11行乃至同頁第16行)、(b)食品の煮込機全体を軸部を介して揺動回動自在に設置された基台上に設けるとともに、該基台の一端にロードセルを設け、該基台の回動の応力をロードセルで測定することによって食品の煮込重量を測定しうるように食品の煮込装置を構成したこと(実用新案登録請求の範囲)、(c)かかる構成の採用により、「煮込釜内容物の重量を正確に測定することができるようにしたものである。内容物の重量変化を管理することによって煮込の仕上時を正確に知ることができる。」(明細書第1頁第19行乃至第2頁第3行)こと、さらには、(d)「煮込釜本体1の内部には撹拌羽根が設けられておりこの撹拌羽根は煮込釜の支持軸2内部を貫通する撹拌軸を通じてボックス3内部に設けられたモーターによって回転するようになっている。」(明細書第2頁第12行乃至同頁第15行)こと、(e)「煮込釜はボックス3と支持枠8を介して基台9に固定されており、基台は軸10を通じて軸受11に揺動回動自在に保持されている。この軸部の位置は煮込釜内容物の重量をなるべく鋭敏に測定できるようにするのがよく、そのために基台上に設けられた食品の煮込機全体の重心付近であってかつ煮込釜からなるべく離れた位置に軸けるのがよい。このことは煮込釜を煮込機全体の重心からなるべく離れた位置に設けるのがよいことも意味する。」(明細書第2頁第19行乃至第3頁第7行)こと、(f)ロードセルは基台下に設けて圧縮応力を測定するようにしてもよいこと(明細書第3頁第13行乃至同頁第14行)が記載されている。
甲第2号証乃至第4号証には、いずれも、ロードセルを用いた重量の計測について記載されており、特に、ロードセルで計測された重量の値を連続的にデイジタル表示することが記載されている。
甲第5号証及び甲第6号証には、いずれも、穀物を乾燥させる場合に、穀物の含水率が所定の値になった時に自動的に乾燥を停止することが記載されている。
Ⅴ. そこで、まず、本件第1発明について検討する。
Ⅴ-1 前記Ⅳの甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、煮込釜に投入した材料を加熱して煮込んで調理するものであって、特に、ロードセルで材料の重量を測定しつつ煮込んでいく加熱調理方法が記載されていると認める。本件第1発明と甲第1号証記載の発明を対比すると、後者における「煮込」が前者における「煮詰め」に相当し、また、後者における「煮込釜」が前者における「加熱釜」に相当することが明らかであるから、両者は、加熱調理方法に関するものであって、加熱釜内に投入した材料の重量をロードセルを用いた秤量装置を使って求めているという点で一致し、(1)前者が加熱釜およびこの加熱釜内に投入した材料の重量をロードセルを用いた秤量装置で検出し、この秤量装置の重量検出信号から材料重量を演算しているのに対して、後者ではロードセルを用いた秤量装置が加熱釜に投入した材料の重量を求めている点、(2)前者が煮詰め行程中に材料重量を連続的に表示しているのに対して、後者ではそれについて特定していない点、(3)前者が材料の含水率を材料重量によって検出し、含水率が所定値に達した時に終了信号を出して煮詰め行程を終了させるのに対して、後者では含水率、終了信号及び煮詰め行程の終了について特定していない点で相違している。
Ⅴ-2 上記相違点(1)について検討する。
秤量を行う場合に、目的とする秤量の対象物を容器に入れて秤量を行って対象物と容器の合計の重量を求め、これから容器自体の重量を減算(演算)して、対象物のみの重量を求めることは、一般に、よく知られている手法である。そして、甲第1号証記載の発明は、加熱釜内に投入された材料の重量を求めるものであるから、かかる発明において、特に、ロードセルを用いた秤量装置で、加熱釜の重量に関係なく加熱釜に投入した材料の重量を求めるかわりに上記周知の手法を採用すること、即ち、加熱釜およびこの加熱釜内に投入した材料の重量をロードセルを用いた秤量装置で検出し、この秤量装置の重量検出信号から材料重量を演算するようにすることは、当業者にとって格別の創意工夫を要せずになし得たことである。
Ⅴ-3 次に、上記相違点(2)につき検討する。
ロードセルを用いて重量の計測を行う場合に、計測された重量を連続的に表示することは、甲第2号証乃至第4号証に記載されるように、当業者にとって周知の技術的事項であり、また、甲第1号証記載の発明が特に食品の加熱調理の技術分野における発明であるからといって、かかる周知の技術的事項が適用されることを妨げる事由は見当たらないことを考えれば、甲第1号証記載の発明において、上記周知の技術的事項を適用して、特に、煮詰め行程中に材料重量を連続的に表示することは、当業者にとって格別の創意工夫を要せずになし得たことである。
Ⅴ-4 さらに、上記相違点(3)につき検討する。
本件第1発明においては、「材料の含水率をその重量によって検出し、含水率が所定値に達した時に終了信号を出して煮詰め行程を終了させる」とされているが、特許請求の範囲第1項の記載の限りでは、材料の含水率が材料の重量により如何にして検出し得るものかが、明確に読み取れるものではなく、ひいては、重量検出信号から演算された材料重量と終了信号との関係が技術的に明確に理解し得るものではない。そこで、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面の記載において材料重量と含水率の関係について具体的に説明している箇所をみると、発明の詳細な説明の中の実施例の説明に関する部分で、「含水率が所定値となった重量の時に作動するように予め前記指示機構24aを投入時の材料の水以外のものの重量に対応させて設定しておく」(明細書第6頁第4行乃至第7行)、「所定含水率となる重量に達した時にブザー24cによる終了信号を出す」(明細書第6頁第19行乃至第7頁第1行)及び「煮詰め行程を行う食品の種類、材料の投入重量によって、所定含水率と煮詰め行程終了重量との関係が異なるので、対照表を用い投入時の材料の水以外のものの重量に対応させて指示機構24bの設定操作を行い、あるいは制御装置24に指示機構24a設定用の電算機を組み込み、食品の種類を選択するだけで水以外の材料の投入重量に応じた煮詰め行程終了重量に指示機構24bが設定されるようにしてもよい。」(明細書第7頁第2行乃至第10行)という箇所があげられるのみであって、他には具体的な説明箇所は見当たらない。これらの箇所の記載からすると、本件第1特許発明における「材料の含水率をその重量によって検出し、含水率が所定値に達した時に終了信号を出して煮詰め行程を終了させる」なる事項の具体的内容は、要するに、加熱釜内に投入した材料の含水率が所定値となるような材料の重量を予め設定しておいて、ロードセルの重量検出信号から演算した材料重量がこの設定しておいた重量となった時に終了信号を出すというものと解される。
ところで、煮詰め行程とは、対象物が目標とする煮詰められた状態にいたるまで加熱していく行程であって、目標とする煮詰められた状態にいたれば、即ち煮詰めが仕上がれば、当然終了されるべき性格の行程であり、さらに、目標とする煮詰められた状態とは、材料の水分が所定量蒸発した状態、即ち材料の含水率が所定値になった状態であることは、当業者にとっで自明の技術的事項である。そして、甲第1号証記載の発明は、前記Ⅳの(c)にあるように、加熱釜内に投入した材料の重量の時間的な変化を管理して作業者に煮詰め行程が仕上がった時を知らしめることができるものであるから、甲第1号証記載の発明において、材料重量を予め設定した重量と比較して両者が一致した時を煮詰めが仕上がった時と判断することは、当業者が当然行うことである。また、ある行程を進行させる場合に、その行程が終了されるべき状態にいたると終了信号を出すことは、例えば、甲第5号証、甲第6号証にも見られるように、広く行われている事項である。してみると、甲第1号証記載の発明において、特に、加熱釜内に投入した材料の含水率が所定値となるような材料の重量を予め設定しておいて、ロードセルの重量検出信号から演算した材料重量がこの設定しておいた重量となった時に終了信号を出して煮詰め行程を終了させることは、当業者か格別の創意工夫を要せずになし得たことであると認める。
Ⅴ-5 そして、本件第1発明により、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証乃至第6号証記載の周知の技術的事項から予期される以上の格別顕著な効果が奏されるものではない。
したがって、本件第1発明は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証乃至第6号証記載の周知の技術的事項に基いて、容易に発明をすることができたものと認める。
Ⅵ. 次に、本件第2発明について検討する。
Ⅵ-1 前記Ⅳの甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、撹拌羽根を有する煮込釜、ロードセルを用いた秤量装置を備え、この秤量装置の重量検出信号から材料の重量を求めている加熱装置が記載されていると認める。本件第2発明と甲第1号証記載の発明を対比すると、後者の「煮込」が前者の「煮詰め」に相当し、また、後者の「撹拌羽根を有する煮込釜」が前者の「撹拌機を有する加熱釜」に相当することが明らかであり、さらに、後者においても煮込釜は秤量装置のロードセルに支持されているから、両者は、加熱装置に関するものであって、撹拌機を有する加熱釜を秤量装置のロードセルに支持させ、前記秤量装置の重量検出信号から材料重量を求めている点で一致し、(1)前者では加熱釜が秤量装置のロードセルに支持され、秤量装置に表示機構を有する制御装置が接続され、表示機構が秤量装置の重量検出信号から演算した煮詰め行程中の材料重量を連続的にデイジタル表示しているのに対して、後者では秤量装置の重量検出信号は加熱釜内に投入した材料の重量を示すものであり、また、材料重量の表示について特定していない点、(2)前者の制御装置が材料の重量から検出される材料の含水率が所定値に達した時に終了信号を出す指示機構を有するのに対して、後者では含水率、終了信号及び指示機構について特定していない点で相違している。
Ⅵ-2 上記相違点(1)につき検討する。
秤量を行う場合に、目的とする秤量の対象物を容器に入れて秤量を行って対象物と容器の合計の重量を求め、これから容器自体の重量を減算(演算)して、対象物のみの重量を求めることは、一般に、よく知られている手法である。そして、甲第1号証記載の発明は、加熱釜内に投入された材料の重量を求めるものであるから、かかる発明において、特に、ロードセルを用いた秤量装置の重量検出信号で加熱釜内に投入した材料の重量を示すかわりに上記周知の手法を採用すること、即ち、秤量装置の重量検出信号から材料重量を演算するようにすることは、当業者にとって格別の創意工夫を要せずになし得たことである。
また、ロードセルを用いて重量の計測を行う場合に、計測された重量を連続的にデイジタル表示することは、甲第2号証乃至第4号証に記載されるようた、当業者にとって周知の技術的事項であり、また、甲第1号証記載の発明が特に食品の加熱調理の技術分野における発明であるからといって、かかる周知の技術的事項が適用されることを妨げる事由は見当たらないことを考えれば、甲第1号証記載の発明において、上記周知の技術的事項を適用して、特に、煮詰あ行程中の材料重量を連続的に表示することは、当業者にとって格別の創意工夫を要せずになし得たことである。
そして、材料重量を演算した後にこれを表示するために、秤量装置に表示機構を有する制御装置を接続する必要があることは、いうまでもないことである。
してみれば、甲第1号証記載の発明において、上記相違点(1)でいう本件第2発明の構成をとることは、当業者にとって格別な創意工夫を要することとはいえない。
Ⅵ-3 次に、上記相違点(2)につき検討する。
本件第2発明においては、制御装置が「材料の重量から検出される材料の含水率が所定値に達した時に終了信号を出す」指示機構を有するとされているが、特許請求の範囲第2項の記載の限りでは、材料の含水率が材料の重量により如何にして検出し得るものであるのかは、明確に読み取れるものではなく、ひいては、重量検出信号から演算された材料重量と終了信号の関係が技術的に明確に理解し得るものではない。そこで、本件明細書の発明の詳細な記載及び図面の記載において材料重量と含水率の関係について具体的に説明している箇所をみると、発明の詳細な説明の中の実施例の説明を行っている部分に、既にⅤ-4で示した箇所があげられるのみであって、他には具体的な説明箇所は見当たらない。よって、本件第2発明における「材料の重量から検出される材料の含水率が所定値に達した時に終了信号を出す」なる事項の具体的内容は、発明の詳細な説明における上記箇所の記載内容からして、加熱釜内に投入した材料の含水率が所定値となる重量を予め設定しておいて、ロードセルの重量検出信号から演算した材料重量がこの予め設定しておいた重量となった時に終了信号を出すというものと解される。
ところで、煮詰め行程とは、対象物が目標とする煮詰められた状態にいたるまで加熱していく行程であって、目標とする煮詰められた状態にいたれば、即ち煮詰めが仕上がれば、当然終了されるべき性格の行程であり、さらに、目標とする煮詰められた状態とは、材料の水分が所定量蒸発した状態、即ち材料の含水率が所定値になった状態であることは、当業者にとって自明の技術的事項である。そして、甲第1号証記載の発明は、前記Ⅳの(c)にあるように、加熱釜内に投入した材料の重量変化を管理して作業者に煮詰め行程が仕上がった時を知らしめることができるものであるから、甲第1号証記載の発明において、材料重量を予め設定した重量と比較して両者が一致した時を煮詰めが仕上がった時と判断することは、当業者が当然行うことである。また、ある装置を制御して特定の行程を進行させる場合に、その行程が終了されるべき状態にいたると終了信号を出す指示機構をその装置に設けることは、例えば、甲第5号証、甲第6号証にも見られるように、広く行われている事項である。してみると、、甲第1号証記載の発明において、特に、加熱釜内に投入した材料の含水率が所定値となる重量を予め設定しておいて、ロードセルの重量検出信号から演算した材料重量がこの予め設定しておいた重量となった時に終了信号を出す指示機構を設けることは、当業者が格別の創意工夫を要せずになし得たことであると認められ、また、かかる指示機構を秤量装置に接続した制御装置に設けることは、当業者が加熱装置を設計する上で適宜採用し得たことにすぎない。
Ⅵ-4 そして、本件第2発明により、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証乃至第6号証記載の周知の技術的事項から予期される以上の格別顕著な効果が奏されるものでもない。
したがって、本件第2発明は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証乃至第6号証記載の周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
Ⅶ. 以上のとおりであるから、本件第1発明及び第2発明は、各々、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証乃至第6号証記載の周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違背してなされたものであって、同法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
平成7年7月28日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)